仕事や家事で忙しいときに頭痛が……。こんなとき、お薬に頼る頭痛もちの方は多いことでしょう。しかし中には、「頭痛薬を飲んでも効かなくなってきた」「頭痛が増えた感じがして、慢性的に痛みがある」とお悩みの方もいらっしゃるかもしれません。
頭痛薬が効きづらくなっている原因は、薬物乱用頭痛の可能性があります。薬物乱用頭痛は「いつもの頭痛」と放置せず、医療機関で治療を受けることが大切です。
そこで今回は、薬物乱用頭痛の原因と対処法、薬物乱用頭痛の疑いがある場合の目安について解説します。
薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)とは?
薬物乱用頭痛とは、頭痛の治療薬を使い過ぎることで生じる頭痛のことです。お薬の種類は市販薬・処方薬を問いません。なお、薬物乱用頭痛で最も多いのは、市販の鎮痛薬の代表といわれる複合鎮痛薬によるものだとされています。
薬物乱用頭痛になる人の多くは、もともと片頭痛や緊張型頭痛に悩まされていた人たちです。まれに、慢性群発頭痛のようなほかの一次性頭痛(脳のCT、MRI検査で異常を認めない頭痛)の方がなる場合もあります。
こうした、いわゆる「頭痛もち」の方で、頭痛に対する不安から薬を早めに飲んだり、頭痛がないのに薬を飲んでしまったりする方に薬物乱用頭痛は起こりやすいです。薬物乱用頭痛になると、頭痛の治療薬の効果が弱くなり、さらに頭痛がひどくなったり、頭痛が起こる頻度が高まったりします。
薬物乱用頭痛は女性に多い傾向
頭痛外来や頭痛センターで薬物乱用頭痛が占める割合は、ヨーロッパで最高30%、アメリカでは50%と報告されており、比較的高い数値となっています。また、女性が圧倒的に多い傾向で、患者の約70%を占めています。
日本での割合は明らかにされていませんが、海外の傾向を見ると、身近な痛みのひとつといえるでしょう。
当てはまる人は薬物乱用頭痛に注意
『国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版』にある、薬剤の使用過多による頭痛の診断基準をもとにした、薬物乱用頭痛の目安は次のとおりです。
A)以前から頭痛もちであり、1か月に15日以上頭痛が起こっている
B)1種類以上の頭痛治療薬※を3か月以上、定期的に乱用している
C)国際頭痛分類第3版にあるほかの頭痛で、最適なものがない
※急性期・対症的を問わない。
ほかの頭痛の可能性があるかどうかは自己判断できないので、あくまで目安として参考にしていただき、正しい診断は医療機関で受けてください。
頭痛治療薬の定期的な乱用について
頭痛治療薬の定期的な乱用は、薬の種類によって1か月に10日以上を目安にするか、1か月に15日以上を目安にするかが異なります。
たとえば、ロキソプロフェンに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)の場合は、1か月に15日以上が目安になります。複合鎮痛薬は1か月に10日以上が目安です。ご自身が服用しているお薬の種類をご確認の上、医師にご相談ください。
薬物乱用頭痛になったときの対処法
薬物乱用頭痛の対処法を3つと注意点をご紹介します。
対処法【1】頭痛治療薬を飲むのを中止する
薬物乱用頭痛の主な治療は、「原因となっている頭痛薬を徐々に減らす」か「すぐに頭痛薬を中止する」かの2パターンがあります。中でも、すぐに頭痛薬を中止する治療の方が良好な結果を得られやすいとされています。
必ずとは言えないものの、通常、頭痛薬の乱用を中止すると痛みは消失します。
対処法【2】アルコールやタバコを控える
薬物乱用頭痛治療の経過が良くない原因のひとつとして、アルコールやタバコが挙げられます。飲酒や喫煙の習慣がある方は、薬物乱用頭痛を治すために、これらを控えましょう。
対処法【3】もしもの頭痛に備えて早めに医師へ相談する
頭痛薬を中止すると、「もしも頭痛が起こったら」と不安になる方もいらっしゃることでしょう。頭痛の診療を行う脳神経内科や頭痛外来などを受診すると、予防薬が処方されたり、今後頭痛が起こった場合の対処の指導を受けられたりする可能性があります。
薬物乱用頭痛の予防薬としては、抗てんかん薬や抗うつ薬、ステロイド、消炎鎮痛薬などを用いることがあります。予防薬を早めに導入することで、1か月あたりの頭痛日数が3か月で7.2日、12か月で10.3日、もとの頭痛日数より減ったことが報告されています。
注意:薬物乱用頭痛は再発しやすい
薬物乱用頭痛は、原因となっている頭痛治療薬を中止することで約70%の症例で改善が得られたと報告されています。しかし長期的に見ると、約30%の人に薬物乱用頭痛が再発するとされています。また、徐々に薬を減らす治療の方が再発しやすい傾向です。
薬物乱用頭痛になったら、再発予防に役立つ「頭痛ダイアリー」をつけて、定期的に薬物摂取の状況を確認するといいでしょう。
【頭痛ダイアリーとは】
頭痛ダイアリーとは、頭痛が起こった日時や痛みの程度、服用した薬などを記録するツールのことです。頭痛症状を医師に伝えるときにも役に立ちます。頭痛ダイアリーをつける際は、次の項目を記録するといいでしょう。
・日付
・頭痛が起こったタイミング(午前・午後・夜)
・痛みの程度(軽度・中等度・重度の3段階で評価)
・薬について(服用の有無、薬の種類と効果の有無)
・日常生活への影響度(3段階で評価)
・生理の有無(女性の場合)
薬物乱用頭痛に心当たりのある方はご相談ください
薬物乱用頭痛を軽視すると、痛みが起こる頻度が高まったり、より痛みが強くなったりするおそれがあります。服用しているお薬を中止して医療機関を受診すれば、改善される可能性があるので、ぜひ医師へご相談ください。
当院でも薬物乱用頭痛の診療を行っております。生活スタイルに合わせた頭痛の治療や予防を心がけておりますので、いしざき脳神経内科へお気軽にお越しください。